先日、図書館に行った時、新着図書コーナーに「今日から物知り」シリーズの「トコトンやさしい切削工具の本」が置かれていた。最近何冊か目を通した本のシリーズの1冊である。以前翻訳業務でお世話になった会社でも切削工具の取り扱いがあったため、気になり手に取ってみた。
「今日から物知り」シリーズは、工業技術分野の専門用語をわかりやすく解説している書籍のシリーズである。技術系の知識の乏しい私でも身近な例を挙げて説明してくれるので読みやすいし記憶に残りやすい。図解の豊富なのも助かる。
今回のテーマである切削工具についてだが、身の回りには様々な切削工具がある。思いつくものを挙げてみると、はさみ、包丁、カッター、大根おろし、鉛筆削りなど。それぞれの切削工具にできることは、包丁なら切る、皮をむく。カッターなら切る、削る。大根おろしならすりおろす、という具合である。
日本と欧米の刃物の違いについても書かれている。例えば、日本ののこぎりは持ち手の方向に刃がついているので引くときに力を加える。表面を削るカンナも同じく引くときに力を加える。欧米ののこぎりは持ち手と逆方向に刃がついている。押すときに力を加えて切るのである。
バイトとは
この本には様々な切削工具について詳細に書かれていて大変興味深い本である。
今回は特に最近気になっていた「バイト」について調べてみることにした。
バイトとは旋盤で使用する切削工具である。

旋盤とは加工したいものを主軸に固定し、回転させ、取り付けられた切削工具(バイト)を動かすことによって、軸対称状に切削できる機械のことである。

鑿(のみ)のことをドイツ語とオランダ語でbitelといい、構造が似ていることから、旋盤で使用する切削工具もバイテルと呼ぶようになった。バイトというのは日本で訛って生まれた名称だそうだ。
鑿(のみ)

引用元:https://www.komeri.com/contents/howto/index.html
海外でバイトと言っても通じないので、英語ではcutting toolと呼ぶ。
バイトの構造は「柄」と「材料を削り取る刃部」に分類される。
バイトは柄の部分はshank、刃部をtipと呼ぶ。金属加工で生じる切りくずの方はchipである。また素材を削る動作もchipである。日本語でチッピングというと、金属加工において切削工具の刃先が衝撃などで欠けてしまうことを表す。
Chipping(切削)についての記述を以下に引用する。
1. Chipping metal and chipping tools
Chipping is a process of removing metal from a workpiece by means of a cutting instrument such as a chisel and a hammer. This process is used when a large piece of metal has to be removed from a workpiece; this process is very ’labour-consuming’ and is applied only in cases when the workpiece cannot be machined. Chipping is used in cases when it is necessary to cut off a piece of metal from sheet metal. Chipping of large parts is always done on an anvil but very often it is done in a bench vice.
https://studfile.net/preview/1977779/page:3/
【訳例】
1.金属切削と切削工具
切削とはチゼル(鑿)やハンマーなどの切削工具を使用し素材から金属を取り除く工程である。この工程は素材から大きな金属片を取り除く必要があるときに行われるが、人手がかかるので、素材を機械加工できないときだけ適用される。切削は板金から金属片を切り離す必要のあるときに使われる。大きいパーツを削る際はアンビルの上で行うが通常はベンチバイスの上で行う。
アンビル:鍛冶や金属加工を行うときに使う作業台
ベンチバイス:作業台に取り付けて素材を固定する保持具

日本の鑿(のみ)
鑿(のみ)を英語でどう表現するか調べたところchiselと記載があった。(ジーニアス和英辞典)例文として、「のみで穴を開ける」”make a hole with a chisel; chisel a hole”というように、chiselは名詞としても動詞としても使われる。
せん断と切断の違い
ハサミもカッターも切ることができる工具であり、1つのものを2つに分離する点に関しては同じだが、仕組みに違いがあるという記述も興味深い。カッターは1つの組織を2つに分離する、ハサミは紙の組織を上下にずらして分離する仕組みである。この仕組みの違いから、カッターで切ることは「切断」、ハサミで切ることは「せん断」という。「せん断」という言葉を詳しく調べてみると、「物体内部のある面に沿って両側部分を互いにずれさせるような作用」とある。(大辞泉)
ちなみに切断はcut、せん断はshearと訳されている(自然科学系和英大辞典)。
Shearは羊の毛を刈るやそぎ取るなどの意味がある。
特許明細書
切削に関する特許明細書を検索した。
Cutting tool
US4560308A
A rotary cutting tool of the type comprising an elongated cylindrical body having a central axis about which it is rotated for performing cutting or material removal operations during relative movement in directions perpendicular to its axis of rotation. The body includes a shank end portion and a cutting end portion. The cutting end portion includes a plurality of generally continuous cutting edges lying at a uniform radial distance from the axis and extending in generally parallel helical paths about the body. Each of the cutting edges is preferably of generally sinusoidal configuration along its respective helical path with spaced portions of each edge having alternating positive and negative radial rake.
https://patents.google.com/patent/US4560308A/en
第1文目を訳してみると、
「中心軸を持つ長円筒形の本体を備えたタイプの回転式切削工具であり、その工具がその回転軸に垂直な方向で相対的に動いている間、切削や材料の除去作業を行うために、その中心軸を中心に回転する。」
“during relative movement”(相対的に動いている間)についてイメージができなかったので、意味や用例、用法を調べてみることにした。
Relative movementは「相対的な動き」「相対的運動」と訳せるようなので、Googleで検索してみると、相対運動という表現が見つかった。定義は「物理系で一方の物体の位置と方向に対する、他方の物体の位置と方向の変化」(大辞泉)

「相対的な動きの中で」というのは、Workpiece(素材)とcutting tool(切削工具)との関係のことだいうことが分かった。お互いが関係しあって動いている間という意味なのだと推測できた。
「切る」と「削る」の英語表現
切る
cut
chop
slice
削る
shave
plane
sharpen
まとめ
一言で「切る」や「削る」と言っても様々な仕組みがあり、切削工具をどの分野でしようするかによって用語の使用方法は変わってくることがわかった。「トコトンやさしい切削工具の本」には今回取り上げた内容以外にも豊富な知識が網羅されているので、またの機会にブログにまとめたいと思う。
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