講座ビデオ「4523_翻訳学習の4段階」において、前回のブログ記事を取り上げていただいたので、その講座内容を参考に、以下の特許明細書を読んでみた。
アーク放電ランプ用陰極
Cathode for arc discharge lamp
出願番号:特願平7―100736
出願人:新日本無線株式会社
試訳と公開訳を比較しながら、公開訳で使用されている表現などから学びを広げていこうと思う。
(引用部分を太字で表した)
概略
この発明は、アーク放電ランプの性能を向上させるためのもののようである。アーク放電ランプは、高電圧を印加するとガスまたは蒸気内でアーク(放電)を生成し、光を放出する照明装置である。このランプの主要な構成要素の一つが陰極、つまり電流の流入点である。
この特許明細書の目的の部分で言及されているのは、陰極の頂点近傍への局部的な加熱による影響を減少させることにより、陰極の寿命を延ばすことである。アーク放電ランプにおいて、陰極は高温となりやすく、それが材料の劣化や機能不全を引き起こす主要な原因となる。この発明によって、陰極の耐久性が向上し、ランプ全体の寿命を延ばすことに貢献している。
公開訳と試訳
アーク放電ランプ用陰極の頂点近傍への局部的加熱による影響を少なくし、長寿命化したアーク放電ランプ用陰極を提供する。
【試訳】
To provide a cathode for arc discharge lamps that reduces the effects of localized heating near the tip of the cathode, thereby achieving a longer lifespan for the arc discharge lamp cathode.
【公開訳】
To extend a life of a cathode by fixing a specified impregnated-type cathode in the periphery of a sharp electrode whose tip part is made of a high melting point metal.
公開訳で使用されている impregnated-typeという表現は、「含浸型」という意味である。「含浸」とは、多孔質体の空隙に液体を浸みこませることである。工業的に含浸処理というと、鋳造品の巣穴をふさぐ技術を指す。この発明においては、ランプ用陰極が鋭利電極であり、そのまわりにタングステン電極を固着させることにより、耐久性をあげている。またタングステン電極が多孔質のため、バリウム酸化物を含んだ化合物によって含浸処理を施し、耐熱性や耐衝撃性を向上させている。
【構成】 頂点に高融点金属からなる鋭利電極1を有し、鋭利電極1の周辺に少なくともバリウム酸化物を含む化合物を含浸した多孔質タングステンからなる含浸型陰極2を固着した。
まずこの部分の内容について調べてみた。高融点金属がアーク放電ランプの陰極に使用される場合、これは炭素以外の材料の利用を意味する。高融点金属は、その名の通り、非常に高い温度で溶ける金属を指し、アーク放電ランプのような高温環境において有利な特性を持つ。以下は、陰極として使用される可能性のある高融点金属の例である。
タングステン: 非常に高い融点を持ち、強度と耐熱性に優れているため、アーク放電ランプの電極として広く使用される。
モリブデン: タングステンと同様に高い融点を持ち、耐熱性と耐酸化性が高いため、特定のタイプのランプで使用されることがある。
ルテニウムやイリジウムなどの白金族金属: これらの金属もまた高い融点を持ち、特定の環境下での化学的安定性が高いため、陰極材料として利用されることがある。
【試訳】
The structure comprises a sharp electrode 1 made of a high-melting-point metal at the apex, and an impregnated-type cathode 2, which is made of porous tungsten and impregnated with a compound containing at least barium oxide, fixed around the sharp electrode 1.
公開訳の英文を確認してみると、原文の内容をより詳細に述べた文章になっている。
CONSTITUTION: A porous tungsten is provided by sintering a molded body prepared by compressing and molding a tungsten powder with 4-6μm particle size into approximately a final shape. The porous tungsten is impregnated with oxygen-free copper and after the porous tungsten is finished into a final shape, copper is removed and the porous tungsten is impregnated with a compound containing barium oxide and the tip part is sharpened into a conical shape-at 20-30 deg. to give a impregnated-type cathode 2 with a cylindrical rear part. A hole is formed in the apex part of the tip end part 2a of the impregnated-type cathode 2 and a sharp electrode 1 made of a high melting point metal is so fitted in the hole in the apex part as to expose only the sharpened end part. Then, the impregnated-type cathode 2 and an electricity leading line 3 are soldered with a high melting point solder material.
【上記の和訳】
構成: 約4-6μmの粒径を持つタングステン粉末を圧縮・成形して作られた成形体を焼結することにより、多孔質タングステンが提供される。この多孔質タングステンは無酸素銅で含浸され、多孔質タングステンが最終形状に仕上げられた後、銅を除去し、多孔質タングステンは酸化バリウムを含む化合物で含浸され、先端部分は円錐形に20-30度で鋭く削られ、円筒形の後部を持つ含浸型陰極2となる。含浸型陰極2の先端部2aの頂点部には穴が開けられ、高融点金属製の鋭利電極1がその頂点部の穴に、削った端部のみが露出するように合わせて嵌め込まれる。その後、含浸型陰極2と電気引き出し線3が高融点のはんだ材料ではんだ付けされる。
公開訳の詳細な内容により、この電極の構成がより明確に理解できた。
Impregnate(含浸)について他の特許明細書から用例を抜き出してみた。
EP1718442A4
Impregnation Process
含浸プロセス
This invention relates generally to impregnation processes for impregnating wood or wood products to improve the decay resistance, dimensional stability and/or UV resistance of the wood and density the wood and in particular but not exclusively to an acetylation impregnation process.
本発明は、一般に、木材の耐朽性、寸法安定性、および/または耐紫外線性を改善するために木材または木材製品に含浸するための含浸プロセス、および木材の密度に関するものであり、特にアセチル化含浸プロセスに関するものであるが、これに限定されるものではない。
含浸加工は繊維強化プラスチックの製造過程においても行われる。
US20130145986A1
Impregnation Section of Die for Impregnating Fiber Rovings
繊維ロービングを含浸するためのダイの含浸セクション
含浸加工は繊維強化プラスチック(FRP)の製造過程における工程の一つである。強化繊維(ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維など)が、ポリマーレジン(エポキシ、ポリエステル、ビニルエステルなど)によって均一に含浸される。含浸により、繊維とレジンが密接に結合し、FRPの機械的強度、耐久性、剛性が向上する。また、レジンが硬化することで、製品の形状が固定され寸法精度が保たれる。
ダイ(Die)は金型製作やプレス加工などの製造現場で使用される成形の道具であり、金属、プラスチック、ゴム、合成樹脂など様々な材料を特定の形状や寸法に成形するために設計された専門的な工具や金型の一種である。強化繊維プラスチックの製造過程でも使用される。
まとめ
アーク放電ランプ用陰極の特許明細書を読み解きながら、含浸(impregnate)のプロセスについて調べることができた。続いてスパーク放電に関連する特許を調べてみたい。
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