可動域(Range of Motion)について

産業機械

メジャーリーグのエンジェルスで活躍している大谷選手は高校時代、目標達成に向けてマンダラチャートを作成し、それを日々意識しながら世界が認める一流の野球選手として成長していった。そのマンダラチャートを見てみると、興味深い内容が多い。例えば、「食事 夜7杯、朝3杯」。これはおそらくコメのごはんの量のことだろう。「運」や「人間性」についても書かれていて、今の大谷選手を形作る基盤になっているものといえる。そして、もう一つ気になったのが「可動域」。この言葉は、「スピード160km/h」と「キレ」の項目でそれぞれのチャートに記入されている。野球選手、とりわけピッチャーとして重要な要素となるのだろう。「可動域」と聞いた時、何の可動域なのだろうと疑問が湧いたので、「可動域」について調べ考察してみることにした。

可動域とは

「可動域」とは、関節が持つ動きの範囲のことを指す。スポーツ選手、特に野球のピッチャーやバッターにとっては、関節の可動域が広いことが重要である。理由は以下の通りである。

投球速度の向上: 投手は、肩や肘、腰、膝などの関節がスムーズに動き、大きなアークを描くことでボールに大きな力を加える。その結果、ボールの速度が向上する。

怪我の予防: 適切な可動域があると、関節や筋肉に過度な負担がかからず、怪我のリスクが低減する。

瞬発力の向上: バッターとしても、関節の可動域が広いことでスムーズにスイングを行い、ボールへのインパクトのタイミングや力を最適化することができる。

多様な投球動作の可能性: ピッチャーとしての技巧やバリエーションを増やすためにも、身体の可動域が広いことは有利である。例えば、スライダーやカーブなどの変化球を投げる際にも関節の動きが大切である。

関節の動きに関する用語

以下に関節の動きに関する用語をいくつか挙げてみる。

屈曲 flexion

伸展 extension

外転 abduction

内転 adduction

外旋 external rotation

内旋 internal rotation

「可動域」という言葉は、主に体の関節や筋肉の動きの範囲を指す場面で使われることが多いが、他の場面でも使用される。例えば、機械・ロボット技術などである。ロボットアームや機械の部品が動く範囲を指す場合にも「可動域」という言葉が使われる。

「可動域」という言葉をキーワードに特許明細書を検索してみた。

関連する特許明細書

【公開番号】特開2023-96848(P2023-96848A)

【公開日】令和5年7月7日(2023.7.7)

【発明の名称】ロボットアーム機構

【課題】シリアルリンクの大可動域とパラレルリンクの高出力を両立したロボットアーム機構を提供する。

ここで、シリアルリンクとパラレルリンクについて解説する。ロボットアームには2種類のリンクのタイプがある。シリアルリンクは一連の関節が直列に連結されている構造である。人間の腕はシリアルリンクである。パラレルリンクとは複数のリンクが平行に結合して動作する構造のことである。このロボットアーム機構は、この2つのリンクの利点を組み合わせた新しいロボットアーム機構を指している。つまり、広い動きの範囲(シリアルリンクの特性)と高い出力(パラレルリンクの特性)を同時に持つロボットアームを意味している。

《訳例》

【Problem】To provide a robotic arm mechanism that combines the large range of motion of serial links with the high output of parallel links.

次に、請求項を見てみよう。

【請求項1】

  ベース部材と、

  第一部材と、

  前記ベース部材に対して前記第一部材と同じ側に位置している第二部材と、

  所望の長さに伸縮可能なN(Nは2以上の整数)個の第一連結部材と、

  所望の長さに伸縮可能なN(Nは2以上の整数)個の第二連結部材と、

  バーと、

  ジョイント部材と、

  からなるロボットアーム機構であって、

  前記第一連結部材は前記ベース部材と前記第一部材とを連結し、前記ベース部材と前記第一部材と前記第一連結部材とは第一のパラレルマニピュレータを構成しており、

  前記第二連結部材は前記ベース部材と前記第二部材とを連結し、前記ベース部材と前記第二部材と前記第二連結部材とは第二のパラレルマニピュレータを構成しており、

  前記第一連結部材及び前記第二連結部材の長さを一定に維持すれば前記ベース部材、前記第一部材及び前記第二部材の位置及び姿勢は固定され、

  前記ジョイント部材は、前記バーが前記第二部材に対して前記バーの長さ方向にスライド可能であるように、かつ、前記バーが前記第二部材に対して全方向において回動可能であるように、前記バーを前記第二部材に連結するものであり、

  前記バーの一端は全方向において回動可能であるように前記第一部材に連結されているロボットアーム機構。

パラレルマニュピュレータとは、複数の連鎖またはリンクが共通のベース部材とエンドエフェクタ(操作する末端の部分)に同時に接続されているロボットの一種であり、以下のような特徴を持つ。

高剛性と精度: パラレル構造により、機械的な剛性が高まり、高精度の動作が可能になる。

高速動作: 同時に複数のアクチュエータが動作するため、一般に高速な動作が可能。

出力が高い: その構造から、大きな荷重を持ち上げる能力や高い出力を持っている。

可動域が制限される: パラレルマニピュレータの主な欠点の一つは、シリアルマニピュレータ(通常の産業用ロボットのようなもの)に比べて可動域が制限されることが多いことである。

《訳例》

A robotic arm mechanism comprising:

a base member,

a first member,

a second member positioned on the same side of the said base member as the said first member,

N (where N is an integer greater than or equal to 2) first connecting members capable of extending and contracting to a desired length,

N (where N is an integer greater than or equal to 2) second connecting members capable of extending and contracting to a desired length,

a bar,

and a joint member,

wherein:

the said first connecting member connects the said base member and the said first member, and the said base member, the said first member, and the said first connecting member constitute a first parallel manipulator,

the said second connecting member connects the said base member and the said second member, and the said base member, the said second member, and the said second connecting member constitute a second parallel manipulator,

if the length of the said first connecting member and the said second connecting member is maintained constant, the position and posture of the said base member, the said first member, and the said second member are fixed,

the said joint member connects the said bar to the said second member in such a manner that the said bar can slide in the length direction relative to the said second member, and also, the said bar can rotate in all directions relative to the said second member,

and the one end of the said bar is connected to the said first member in such a manner that it can rotate in all directions.

まとめ

野球選手の肩の関節やロボットアームの動きといった事例を取り上げて「可動域」というテーマで解説を進めることによって、その重要性や多様性について深く掘り下げることができた。野球選手、特にピッチャーの肩の関節の可動域は、球速や変化球、さらには怪我の予防に直結する要因となる。一方で、ロボットアームの可動域はその性能や応用範囲を決定づける要素として欠かせない。この2つの例から、「可動域」が大きな役割を果たしているかがわかった。それぞれの分野での「可動域」の最適化や拡大は、パフォーマンス向上や機能性の向上をもたらす鍵となる要素である。

参考サイト

What do you mean my shoulder is frozen? - Lawrence Park Health and Wellness
Adhesive capsulitis, often referred to as ‘Frozen Shoulder’, is a condition in which the capsule surrounding the shoulder joint becomes inflamed and movement is...
パラレルメカニズム
産業用ロボットはどんな構造?ロボットアームが動く仕組みを徹底解説 | XYZ | 川崎重工業株式会社
人間とロボットには、その構造に共通点があるのをご存知でしょうか。ここでは産業用ロボットで代表的な垂直多関節ロボットを使い、人間と比較をしながらその構造を解説します。

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